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◆神楽坂上だより

神楽坂上だより(4号)

 津波で流されたとみられる福島の小型漁船が太平洋の真ん中のミッドウェー洋上で発見された、と伝えられています。距離にしておよそ3100キロ。これはもうタイムスリップの距離です。
 未曾有の経験から半年を経て、福島県議会は原発を抱える全国の県議会で初めて、全原発廃炉を求める請願を賛成多数で採択して、政治とは合意の形成をはげまし支えていくという、デモクラシー本来のあり方を示してくれたように思えます。

 「学んだことの唯一の証(あかし)は変わることである」(『教えることと学ぶこと』国土社)とは、東北にゆかりの深い哲学者・教育学者、故林竹二先生の言でした。また先生は、教育とは「行為〈プラクテシス〉」でなくてはならないとして、郷土の思想家、新井奥邃や、田中正造の研究・発掘につとめ、敗戦直後には、復員軍人、軍学徒だった若者の復学支援や救済につとめ、晩年の十余年間には小、中、高の各校をめぐり、三百回を越える授業℃タ践を試みられています(日向康『林竹二 天の仕事』講談社、のち教養文庫)。
 そう言えば、原子力や巨大技術に過剰にたよる現代社会に警鐘を鳴らし続けた、故高木仁三郎さんもやはり、「変わる、変える」ということにこだわられた方でした(例えば、「科学は変わる」)。

 ところでここにタイムスリップではなく、現実を写した美しい探訪記が残されています。日本が明治≠ニいう膨張期を驀進し始めようとする直前の、1878(明治11)年5月から書きはじめられた東北≠フスケッチです。
 「米沢平野は、南に繁栄する米沢の町があり、北には湯治客の多い温泉場の赤湯があり、まったくエデンの園である。『鋤で耕したというより鉛筆で描いたように』美しい。米、綿、とうもろこし、煙草、麻、藍、大豆、茄子、くるみ、水瓜、きゅうり、柿、杏、ざくろを豊富に栽培している。実り豊かに微笑する大地であり、アジアのアルカデヤ(桃源郷)である。自力で栄えるこの豊沃な大地は、すべて、それを耕作している人々の所有するところのものである。彼らは、葡萄、いちじく、ざくろの木の下に住み、圧迫のない自由な暮らしをしている。これは圧政に苦しむアジアでは珍しい現象である……」(イザベラ・バード『日本奥地紀行』高梨健吉訳/平凡社/218頁)

 もちろん漁船の運命と同時に、日本の近代化≠フ航跡をたどりなおしてみるのも、変わる≠スめのレッスンの一つのように思います。

2011年11月8日

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