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社会思想社刊
『スリーマイル・パニック』
―核時代最悪のシナリオ―
 マーク・スティーブンス著 渕脇耕一訳
『スリーマイル・パニック』カバー
1979年3月28日のスリーマイル原発事故の際、本当は何が起きていたのか?

人と人とのぶつかり合い、面子や政治の優先、情報の不在と混乱…綿密な取材と巧みな構成によって、あの事故の真相を生き生きと描く。

四六判並製 320頁 本体価格1800円
ISBN4-390-60208-X 1981年9月発行

プロローグ
ただごとならぬ気配に誰もが気付いていた。クロンカイトの「イブニング・ニュース」を録画する時間が迫っていた。CBSの放送センターは、いつになくあわただしく動いていた。
「本番十秒前!」さっと原稿が点検され、いよいよスタートだ。

「こんばんわ! 今日のような一日は世界がいまだかつて経験したことのないものであります。……しかも事故は悪化するのではないかというのが、今夜の暗い見通してあります……」
金曜日の夜に頂点に達したかに思われた緊張と不安と恐怖は、このマンハッタンのスタジオから150マイル離れたところで、二日前から始まっていた。スリーマイル島の問題は全般的にみて、情報の問題だった。情報の存在、情報の不在、そして情報のあいまいさの問題だ。

 本書はあの事故があった時に本当は何が起きていたのかを示そうとするものである。
 原子炉そのものの内部で何が起きたか、電力会社や各省庁がどう反応したか、またマスコミがどのようにその使命を果たそうとしたか、である。危険に対処しようとした政府がどう機能したのか、また時にはどう機能しなかったのかが明らかにされることだろう。

 本書を読まれる方の中には、原子力に対する偏見を感じる方もあるだろうし、推進側の立場に立っていると反発する方もあるだろう。しかしそれはいずれも本書の意図するところではない。賛成、反対ということよりもむしろ、特異なテクノロジーを背景にして、人々や政府機関、制度やイデオロギーがどうぶつかりあうかを見つめようとするものである。このテクノロジーを将来どうすべきかについての判断は本書では示されないだろう。とはいえ、日常的なレベルでどう対処すべきかについてはいくつか結論が下されることだろう。
目次
 悪夢ののろし
 確率一〇〇万分の一への挑戦
 金属的なにおい
 キャプテン・デイブ
 緊急事態宣言
 規制委員会スタッフの到着
 副知事、ビル・スクラントンの若だんな
 二十五年前の汽車の旅
 州都ハリスバーグの関心
10 メディア
11 水曜日の夜
12 放射能雲
13 のどかな水曜日
14 放流
15 情報の混乱
16 暗黒の金曜日
17 メルトダウンの危機
18 一〇〇万投与分のヨウ化カリ
19 再び情報の混乱
20 日曜日の朝
21 学ばれなかった教訓

訳者あとがき
 本書は米国ランダムハウス社から今年の春(1981)に出版されたマーク・スチーブンズ著「スリーマイルアイランド」の全訳である。
 原発事故に関しては一九七九年三月のスリーマイルアイランド原発二号炉の事故以前にも、また以後にもおびただしい量の記事が書かれ論文が提出され、また本が出版されている。しかし事実に即した全体的なものは、現在のところ本書以外には私は知らない。……

 いずれにせよ、事実は小説よりも奇なり。本書を読むと、事実というものがいかに作家の頭の中で組み立てたシナリオより複雑で暗い落とし穴に満ちているかがわかる。そしていかに単純であるかも。『プロメテウス・クライシス』をバンタム版で読んだ時に私は、原子炉内の脱出行、いかにもアメリカ映画的なスリルに満ちた場面展開よりも、議会での論争部分の議論の鋭さに強い印象を受けた。

 本書の面白さもまた、巨大な現代テクノロジーの華ともいうべき原発と逃げまどう蟻のような住民のスペクタクルよりもむしろ、人間と人間とのぶつかりあい、その激しい言葉のやりとりにあるように私は思う。事実を隠して逃げようとする者、それを追いつめようとする者。重大事態を前にしての次元の低いあらそい。その愚かさをあばき続けずにはおかないねばり強い意思。ただ批判するだけではあきたらず、あざ笑っているかのように思われるくだりすら見うけられる。……

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